貴婦人と黒人 ~ボディコンの貴婦人~
外国人労働者たちの街ハールは日が落ちてからが本番という感じで煌々と眩い灯りがあちこちに灯されて活気に満ち溢れていました。露店で酒や食べ物を買い、路肩で歌ったり踊ったり、賭け事に興じたりと皆自由気ままに楽しんでいます。
「淳子、似合ってる。なんて美しいんだ」
着てきた物を全て失った私は唯一残っていた真珠のネックレスをお金代わりにバメルに渡して新しい服を買ってきてもらいました。
「こんな恰好・・・恥ずかしい」
蛇の皮をなめして染料で光沢のある紫色に染めた素材を縫い合わせ、肩を出して胸元はなんとか隠れるくらい深いV字に着られていてひざ丈は股がギリギリ隠れるほどしかない長さ、しかも身体にピッチリと張り好いてボディラインが服の上からもくっきりと分かってしまいます。彼らはこれを「ボディコン」と呼ぶのだそうです。ヒールの高い靴に腰や首には金の派手なチェーンベルトをしています。
その後、バメルが連れていってくれた化粧品のお店で私はさらに変貌を遂げました。
長い黒髪は下ろして、耳たぶに穴を開けて大きなリングを付けて、目元には濃い色で塗られ、唇もありえないほど濃い口紅を塗られました。
「これが本当に私なの?」
出来上がった自分の姿を鏡で見て私は絶句しました。普段の清楚や気品を意識した服装とは真反対の派出でとてもいやらしい姿です。巷の娼婦とはこういう女を言うのではないでしょうか。ましてやもう62にもなってこんな姿では恥ずかしさしかありません。
「この姿のほうがハールには似合う。今この瞬間からお前はこの街の人間だ、ジュンコ」
「でも、おばあさんがこんな恰好してたらみんな不快に思うわ」
「そんなことない。今のジュンコはいつもよりもずっとセクシーで綺麗だ。笑う奴がいたら俺が殴ってやるよ」
バメルはニコっと微笑んで私の肩を抱いて店を出て街に繰り出しました。
最初はこんな恰好で人前を歩くなんて恥ずかしくて大柄のバメルに隠れるようにして歩いていました。すれ違う人たちの中には時々私を見ている人もいました。それは軽蔑の眼差しなのだと思い私は恐ろしかったのです。ですがそれは違いました。
「おい、バメルじゃないか」
「ジョン、それにランド久しぶりだな」
通りの反対側から黒人の男二人が寄ってきてバメルと言葉を交わし互いを抱き合いました。どうやらバメルの知り合いのようです。
「お前の隣にいる女、日本人か?」
「ああそうだ」
相手の黒人二人が大きな瞳で私を睨むように見てきました。やはり日本人に対していい感情は持っていないのでしょう。酷い目に遭うのではと覚悟しました。
「ずいぶん年をとっているようだが、日本人の女を買えるなんてうらやましいな」
「買ったんじゃない。ジュンコは俺の女だ」
「なんだって!お前すごいじゃないか!」
彼らはすぐに私に自己紹介をして私を受け入れてくれているようでした。後で聞いた話ではこの街では日本人の娼婦や女を持っているというのは大変なステータスなのだそうです。それに私の今の恰好を見て彼らは「最高の女」だと思ったそうです。
彼らと共に私は再びダンスホールで踊りました。
「いいぞ、ジュンコ!お前のダンスはキレがあるな」
さっきまでと違い今の私はこの街の人間です。他の外国人たちと同じように全身を振って踊り、時にはスカートの中が見えそうなくらい脚を開いたり、知らない他人に身体を擦りつけたりとやりたい放題にしていました。なにも気を使うことがないというこの解放感、それに音楽と酒がもたらす興奮は私に肉体の衰えを忘れさせるほどの刺激でした。
「ジュンコ、お前は最高の女だぜ」
「ありがとうジョン。こんなに楽しいの初めて」
ジョンとランド、それに他の人たちとも打ち解けて共に酒を交わし私は彼らの仲間入りをしました。社交界の上辺だけの付き合いではありません。確かにお互いを認め合っていると実感のできる仲間たちです。
「なかなかいい女じゃないか」
不意に後ろから私の尻を触られました。華族夫人であればこんなことをされれば激昂するところですが今の私は何とも思いません。むしろ撫でるように触る手に尻を突き出してしまいます。振り返ると南米系と思われる顔立ちの彫りの深い40前後の男が立っていました。
「ありがとうハンサムさん」
「これはこれはリカルドさん、ご無沙汰しています」
バメルがすぐさまその男に声をかけて丁寧に挨拶をしていました。
「バメル、お前の女だったか。いい女を手に入れたな。なかなかやるじゃないか」
「いえいえ、運が良かっただけです」
「運も実力のうちさ。今日は存分に遊んでいけ」
そういうとリカルドと呼ばれていた男は手を振って去っていきました。彼はこの街のボスのような存在で密輸などを行う犯罪組織のリーダーでもあるそうです。
「リカルドさんに認められるとはやったなジュンコ」
リカルドに認められるというのは大変名誉なことでこれをきっかけにその後バメルはハールで有名人になっていきました。
貴婦人として人からいつも敬意を払われていましたが、それとは違う優越感に私は浸っていました。地位や家柄ではなく私が女として価値があるからこそリカルドや他の男たちが声をかけてくるのです。女として認められるということは私の動物本能を刺激して心地よい気分にさせてくれます。
「ジュンコ、これを吸ってみるといい」
バメルから細い棒状のものを渡されました。煙草です。私は今まで吸ったことはありませんでしたが思いきって咥えて煙を吸い込みました。
「ゴホッ・・・こんなの無理」
「吸い方が悪いんだ。それに吸っていくうちになれる。酒を飲みながら吸えばさらにいいぞ」
なんどか吸っていくうちに肺を満たす煙がおいしく思えてきて、気が付けば自分から何本も吸い続けていました。酒を煽り、煙草を吸い、踊ってもう最高の気分です。
「はぁ、楽しい!もう最高!」
私はハールがすっかり好きになりこの街の住人へとなっていったのです。
ハールでの夜はまだはじまったばかりです。
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「淳子、似合ってる。なんて美しいんだ」
着てきた物を全て失った私は唯一残っていた真珠のネックレスをお金代わりにバメルに渡して新しい服を買ってきてもらいました。
「こんな恰好・・・恥ずかしい」
蛇の皮をなめして染料で光沢のある紫色に染めた素材を縫い合わせ、肩を出して胸元はなんとか隠れるくらい深いV字に着られていてひざ丈は股がギリギリ隠れるほどしかない長さ、しかも身体にピッチリと張り好いてボディラインが服の上からもくっきりと分かってしまいます。彼らはこれを「ボディコン」と呼ぶのだそうです。ヒールの高い靴に腰や首には金の派手なチェーンベルトをしています。
その後、バメルが連れていってくれた化粧品のお店で私はさらに変貌を遂げました。
長い黒髪は下ろして、耳たぶに穴を開けて大きなリングを付けて、目元には濃い色で塗られ、唇もありえないほど濃い口紅を塗られました。
「これが本当に私なの?」
出来上がった自分の姿を鏡で見て私は絶句しました。普段の清楚や気品を意識した服装とは真反対の派出でとてもいやらしい姿です。巷の娼婦とはこういう女を言うのではないでしょうか。ましてやもう62にもなってこんな姿では恥ずかしさしかありません。
「この姿のほうがハールには似合う。今この瞬間からお前はこの街の人間だ、ジュンコ」
「でも、おばあさんがこんな恰好してたらみんな不快に思うわ」
「そんなことない。今のジュンコはいつもよりもずっとセクシーで綺麗だ。笑う奴がいたら俺が殴ってやるよ」
バメルはニコっと微笑んで私の肩を抱いて店を出て街に繰り出しました。
最初はこんな恰好で人前を歩くなんて恥ずかしくて大柄のバメルに隠れるようにして歩いていました。すれ違う人たちの中には時々私を見ている人もいました。それは軽蔑の眼差しなのだと思い私は恐ろしかったのです。ですがそれは違いました。
「おい、バメルじゃないか」
「ジョン、それにランド久しぶりだな」
通りの反対側から黒人の男二人が寄ってきてバメルと言葉を交わし互いを抱き合いました。どうやらバメルの知り合いのようです。
「お前の隣にいる女、日本人か?」
「ああそうだ」
相手の黒人二人が大きな瞳で私を睨むように見てきました。やはり日本人に対していい感情は持っていないのでしょう。酷い目に遭うのではと覚悟しました。
「ずいぶん年をとっているようだが、日本人の女を買えるなんてうらやましいな」
「買ったんじゃない。ジュンコは俺の女だ」
「なんだって!お前すごいじゃないか!」
彼らはすぐに私に自己紹介をして私を受け入れてくれているようでした。後で聞いた話ではこの街では日本人の娼婦や女を持っているというのは大変なステータスなのだそうです。それに私の今の恰好を見て彼らは「最高の女」だと思ったそうです。
彼らと共に私は再びダンスホールで踊りました。
「いいぞ、ジュンコ!お前のダンスはキレがあるな」
さっきまでと違い今の私はこの街の人間です。他の外国人たちと同じように全身を振って踊り、時にはスカートの中が見えそうなくらい脚を開いたり、知らない他人に身体を擦りつけたりとやりたい放題にしていました。なにも気を使うことがないというこの解放感、それに音楽と酒がもたらす興奮は私に肉体の衰えを忘れさせるほどの刺激でした。
「ジュンコ、お前は最高の女だぜ」
「ありがとうジョン。こんなに楽しいの初めて」
ジョンとランド、それに他の人たちとも打ち解けて共に酒を交わし私は彼らの仲間入りをしました。社交界の上辺だけの付き合いではありません。確かにお互いを認め合っていると実感のできる仲間たちです。
「なかなかいい女じゃないか」
不意に後ろから私の尻を触られました。華族夫人であればこんなことをされれば激昂するところですが今の私は何とも思いません。むしろ撫でるように触る手に尻を突き出してしまいます。振り返ると南米系と思われる顔立ちの彫りの深い40前後の男が立っていました。
「ありがとうハンサムさん」
「これはこれはリカルドさん、ご無沙汰しています」
バメルがすぐさまその男に声をかけて丁寧に挨拶をしていました。
「バメル、お前の女だったか。いい女を手に入れたな。なかなかやるじゃないか」
「いえいえ、運が良かっただけです」
「運も実力のうちさ。今日は存分に遊んでいけ」
そういうとリカルドと呼ばれていた男は手を振って去っていきました。彼はこの街のボスのような存在で密輸などを行う犯罪組織のリーダーでもあるそうです。
「リカルドさんに認められるとはやったなジュンコ」
リカルドに認められるというのは大変名誉なことでこれをきっかけにその後バメルはハールで有名人になっていきました。
貴婦人として人からいつも敬意を払われていましたが、それとは違う優越感に私は浸っていました。地位や家柄ではなく私が女として価値があるからこそリカルドや他の男たちが声をかけてくるのです。女として認められるということは私の動物本能を刺激して心地よい気分にさせてくれます。
「ジュンコ、これを吸ってみるといい」
バメルから細い棒状のものを渡されました。煙草です。私は今まで吸ったことはありませんでしたが思いきって咥えて煙を吸い込みました。
「ゴホッ・・・こんなの無理」
「吸い方が悪いんだ。それに吸っていくうちになれる。酒を飲みながら吸えばさらにいいぞ」
なんどか吸っていくうちに肺を満たす煙がおいしく思えてきて、気が付けば自分から何本も吸い続けていました。酒を煽り、煙草を吸い、踊ってもう最高の気分です。
「はぁ、楽しい!もう最高!」
私はハールがすっかり好きになりこの街の住人へとなっていったのです。
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